特集 FEATURE

更新日:2023.05.20

地域コミュニティに学ぶ”関わりしろ”のつくりかた

春の訪れとともに、環境が変わったという方も多いのではないでしょうか。
職場や地域など、新しいコミュニティに入るとき「受け入れてもらえるか、馴染んでいけるか」という心配は誰しも感じることがありますよね。
受け入れる側も「いい関係をつくることができるだろうか」「長く関係を続けてもらえるだろうか」と、同じように不安を感じることがあります。
加わる側、受け入れる側の双方が心地よく、居心地のいい関係を築いていくために大切なのが”関わりしろ”です。今回は、自分たちの地域に”よそ者(地域外の人)”を巻き込んコミュニティ続けている2つの地域に話しを聞きました。

震災を経て、リスタートさせた地域をつなぐ場所

フレンドシップ木沢は、旧川口木沢地区で廃校になった小学校を改装した宿泊施設「やまぼうし」の運営を行う団体です一時は活動休止状態でしたが、震災を機に改めて地域の魅力を発信していくことが大切だと感じ活動を再開。復興支援事業で、地域コーディネーターという支援員からの後押しを受け、地域復興の取り組みを始めました。
「支援員がサポートしてくれたことで、外部との接し方やイベントの企画・運営の下地をつくることができた」と運営に携わる星野靖さん。以来、防災キャンプや山菜採りツアーなど地域の自然や魅力を体験してもらうイベントの企画や、県内外の大学の合宿、インターンシップの受入を積極的に行ってきました。やまぼうしは、今では年間1,000人※が利用するなど、よそ者を上手に受け入れている成功モデルと言える地域です。

(※毎日新聞 2021.10.10 東京朝刊 25頁)

関わりの機会をたくさん作り、やってくる人を増やす

そんなフレンドシップ木沢は、外からやって来る人を増やすために積極的に関わりしろをつくってきました。具体的には、そのための環境整備と、体験交流をするイベントの企画の2つです。環境整備では、宿泊や食事ができるやまぼうしと山の遊歩道の整備や、屋号看板づくり、学生と協力してのシャッターアートなど、地域に足を運びやすい環境を整えてきました。
体験交流イベントでは、山菜ふれ愛ツアー、星空観察会など地域の四季を楽しむものから、雪かき体験や防災キャンプ等の研修、大学の研修受け入れなど多種多様なイベントを企画。一年を通じて外の人を受け入れる機会をたくさんつくって来ました。
よそ者を受け入れる際に意識したのが「共通の話題づくり」。60歳でも若手といわれるほど平均年齢が高い木沢地区の人たちは、若い学生を受け入れるにあたって何を話せばよいか不安だったそう。そこで体験交流会では山菜採りや、冬囲い、花の苗植えなど、必ず一緒に作業する時間を作るようにしたそうです。共同作業をきっかけに自然と会話が生まれ、地域の人と訪れた人との距離が縮まったと言います。こうしたつながりの中から「何かやってみたい」「チャレンジしてみたい」という人が木沢を訪れ、それぞれの場所で新たな人が関われる関わりしろをつくっています。

約12年続く、ゆるやかな関係

関わりしろを考える上で、「広く沢山の人に来てもらう」ことと同じくらい、一度つながった人に「長く関わり続けてもらう」ことも重要です。
旧小国町下村地区は、川口木沢地区と同じく復興支援事業で学生を受け入れることとなり、振興協議会を立ち上げました。そして、当時長岡大学の1年生だった増沢成美さんらの学生サークルとの関係がスタート。一緒に畑・米づくりや、冬のイベントや収穫祭の企画などをしてきました。増沢さんが下村に関わり始めた頃「集落の人に受け入れてもらえるか」という不安を感じていましたが、集落の人と活動していく中で距離が縮まっていきました。「お互いが気を遣わずにみんなで楽しむ」という気持ちを大切に、気がつけば卒業後も12年関係が続いています。今でも友達や、パートナー、子どもを連れ下村に通い続ける、まるで親戚のような関係となりました。

半分クローズドな関わりだからこそ育まれる安心感

下村の取り組みの特徴として、ほぼ同じ少数の学生と活動を続け、卒業後も同じメンバーに声をかけ続け一緒に活動してきたことがあります。「親戚のような関係」の背景には、不特定多数を集めるのではなく、少人数で特定のメンバーが、何度も顔を合わせ、一緒に活動を積み重ねることで育まれた安心感がありそうです。
受け入れ団体となった振興協議会の前身は、実は「道楽会」という地域の人たちがお酒を飲んで楽しむ会。代表の山﨑忠吉さんは「人が来てくれれば、それを口実にみんなで集まることができる。自分たちにとっても楽しい場が増えることがうれしい」と、自分たちが楽しむ姿勢を大切にしています。そして、つながった学生は「一緒に楽しむ仲間」であり、イベント等に声をかける際も、集客のための告知ではなく、「友達を遊びに誘う」ように声をかけてきました。
そんな下村の山﨑さんや、大崎さんたちが入っているLINEグループ「下村LINE」では、下村の行事のチラシや振興協議会メンバーで行う芋煮会、BBQのお誘いから「結婚しました!」「子どもが産まれました!」という報告メッセージまで、まさに親戚たちのようなやりとりがされています。
半分クローズドだからこそ育まれた親密な関係性が「いつ行っても大丈夫」という安心感を生み出してくれているように感じられます。

関りしろが場の豊かさをつくる

このように、関わりしろづくりには、新たなつながりをつくるための取り組みと、関係を深めるための取り組みがあります。それぞれの段階によって必要なことや、心がけるポイントが異なりそうです。ただ、両団体に共通していたのは、受け入れ側が心の底から楽しんでいるという点でした。「せっかく来てくれた(参加してくれた)んだから、おもてなしをしなくては」と気負いすぎず、地域や団体の困りごとを相談する・一緒に作業してもらうという、ちょっとした負担をお願いすることも大切です。「ありがとう」という言葉の受け渡しが、お互いの関係をより良く深いものへと変えていきます。受け入れる側も参加する側も、相手を受け入れる余白と感謝の気持ちを持つことが、関わりしろになっていきます。