特集 FEATURE

更新日:2023.07.24

互いの長所を持ち寄り、補い合う 協働事業

 

新型コロナウイルスが5類感染症に移行され、イベントの復活や人数制限が解除されるなど、徐々にコロナウイルス禍前の日常が戻りつつありますね。ここ数年間、やりたいことを思うようにできなかった分、これから始めたいという方も多いのではないでしょうか。物事を始めようと考えたとき、何をやるにも誰かと協力して行う方が負担も軽くなり、様々なアイデアを生み出すことができますよね。誰かと協力して行うメリットは、団体においても同じ。では、他者や他団体と協力して事業を進めていくために、どんなポイントを意識すればいいのでしょうか。

双方の強みを活かす、行政と市民団体の協働事業

 協働事業の例として、行政と市民団体の協働が挙げられます。「全体の奉仕者」であるが故に特定の分野だけに注力できない行政と、柔軟な発想を持つ市民団体。双方が持つ長所でお互いの短所を補い合うことができます。市民団体やイベントの立ち上げ期は、社会からの認知度や信頼度が低いこともありますが、行政と組むことで広報力・信頼力アップにつながります。 また、予算規模が大きくなることで、活動の幅を広げることも。一方、行政にとっては手の届かない細かなニーズや、地域課題にリーチすることができます。

キャッチーなイベントで農業振興を目指す

2023年で6回目の開催を迎える「世界えだまめ早食い選手権」。イベント名を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。第4回大会では、1日で来場者12,000人を越え、市内でも大きなイベントの一つとして数えられています。同イベントの実行委員会を立ち上げたのは、長岡市で生産される枝豆の魅力を広め、消費を拡大させたいという想いを持った若手農家の皆さんでした。
 イベント当日は早食い選手権の他、枝豆を使ったグルメが楽しめるマルシェ「エダマメフェスタ」も同時開催。会場全体で消費する枝豆の量は700kg以上。来場者も市内にとどまらず、県内外、国外から幅広い世代が訪れ、長岡の枝豆を楽しんでいます。多くの人を惹きつける魅力は、「枝豆の早食い」というキャッチーな企画にあります。マスコットキャラクターやレフリーなど、大会を盛り上げる仕掛けも多く、来場者が楽しみながら枝豆を消費し、その結果が長岡の農業を盛り上げ、地域活性化につながっています。
 イベントを主催する「ながおか農chelleプロジェクト実行委員会」は、2016年の初開催から、長岡市農水産政策課を含む様々な組織と協働で開催。2017年から農水産政策課で同イベントを担当している大竹聡史さんは、「団体として目指している長岡産野菜の魅力発信や消費拡大が、当課としても目指している部分と合致していた。市民団体と協働することで、行政にはない柔軟な発想のイベントができ、幅広い世代や地域に認知されている」と話します。

ながおか農challeプロジェクト実行委員会 実行委員長大島健さん(左)と農政課大竹聡史さん


持続可能な事業を続けるために


 「大きなイベントになればなるほど、市民団体の力でできる限界を感じていた」と話すのは、現実行委員長の大島健さん。イベントの規模に比べて、実行委員会メンバーは14人と少人数のため、イベントを開催するには、様々な組織に役割を担ってもらう必要がありました。例えば当日選手権などで消費する約1000人分の枝豆は、JAえちご中越が確保。選手権で使用する枝豆の品種が統一できるよう調整を行っているほか、当日は運営スタッフとしても参加しています。また、手続きや調整が必要なマルシェは農水産政策課を中心としたメンバーが担当。それにより、枝豆をはじめとした長岡産の食材を使用することをルールに設けるなど、より長岡にこだわったマルシェを開催できると大竹さんは話します。関わる組織が持つ長所を活かし、必要な部分を補い合うために、行政、JAの職員も実行委員メンバーとして所属し、イベントの方向性や役割分担を話し合いながら進めてきました。それだけ多様な組織が関わる理由の一つは、イベントを通して長岡産野菜のおいしさや魅力を広めていることにあります。これまで全国テレビ番組や全国誌などに数多く取材されてきました。イベントが全国から注目されていることで、「長岡市」の認知度アップに貢献しています。

全国ネットのTV番組にも多く取材され、参加者も県内外から応募があり、倍率は何と約4倍。

専門分野を担い、活動を進める

 行政が行う施策の企画・実施を市民団体が担うことも、協働事業の一つ。「ウィメンズヘルスlab」は、乳がんをはじめ女性特有の病気の予防や早期発見ができるよう出張・出前講座などの活動を行っています。代表の平澤幸恵さんは「団体として活動を始めるとき、自分たちだけでは活動を広めるのに限界があると感じ、他団体に協力してもらおうと思った」と話します。まずは、助産師として働く中でつながりのあった行政や母子保健推進員協議会に、団体の想いを伝えるとともに、各団体向けの事業提案を行いました。同時に自分たちで少しずつ活動し積み重ねてきた実績や、活動メンバー全員が助産師であるという専門性の高さから、行政や企業から育児相談、ママ・パパ向け講座などの依頼が舞い込むようになったそう。他団体と協働することで、今までつながりのなかった市民に情報を届けられるようになりました。
 講座を引き受けるポイントとして、依頼者の意向に沿った内容を入れながら、団体として伝えたい乳がんや病気の啓発を組み合わせて講座の提案をしていると平澤さんは話します。団体として守りたいこと、必ず伝えたい部分の芯は変えずに、相手が必要とする要素を足していくことで、双方が行いたい事業を実施できています。

コミュニティセンターで開催した「女性のがん講座」。講義の後は模型を使って、自己検診で乳がんのしこりを確認できる方法を伝えています。

団体ができること、足りないことを理解する 

今回取材した2つの団体は、それぞれ目的が一致している組織と協働事業を行っていました。そして、その協働によって生まれた成果があることで、事業が継続していきます。行政に限らず、他団体と協働していくためには、団体の長所と短所を把握しておくことが大切。長所が明確だと、自分たちにしかできない事業提案ができ、短所を知っていればそこをカバーしてくれる協力者を探すことができます。様々な長所を持ち寄り、お互いの足りない部分を補うことで、より広く、長く続けられる活動になるのではないでしょうか。