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更新日:2023.11.28

「比礼カカシプロジェクト」に見る活動継続のコツ

「よし、やるぞ!」と意気込んで始めたものの、先が続かない。市民活動でも、私生活でも、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。徐々に新鮮さが失われていく中で、当初のやる気を維持しながら決めたことを続けていくのは難しいものです。市民活動で言えば、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに活動が途絶え、再開させるタイミングを失っている団体もあるのではないでしょうか。今月号では、感染症流行の時期を乗り越え、今もなお続いている「比礼カカシプロジェクト」に関わる、長岡造形大学教授・境野広志さん、栃尾比礼地区区長・橘 仁さん、長岡造形大学学生・阿部愛(まな)さんにお話を伺いました。

「比礼カカシプロジェクト」とは

「比礼カカシプロジェクト」とは、長岡造形大学の学生たちが作ったカカシを栃尾比礼地区にある棚田に設置する過程の中で、農作業や食事会を通じて学生と地域の方が交流するプロジェクトのこと。2009年に、プロジェクトの前担当者である長岡造形大学教授・上野裕治さんの「田んぼの景観をよくしたい」という想いのもと、ゼミナールの活動の一環として始まりました。その後、地域の方が投票するカカシコンクールや7月の農作業など、学生と地域の方が交流する機会を増やしていき、現在は、ゼミナールの活動の一環としてではなく、地域社会や地場産業と学生・教員が協働して地域の新たな価値を創造する「地域協創」の授業のひとつとして開催されています。「地域協創の授業を取るなら、カカシプロジェクトがいいよ」と先輩から後輩へ受け継がれているほど、人気があるそうです。

 

学生が作成したカカシの中から、地域の人がどれがいいか投票するカカシコンクールの後の一枚。

感染症の流行による継続の危機

2009年から始まり、棚田に関する優れた取り組みを認定する、農林水産省の「つなぐ棚田遺産」にも選ばれていますが、感染症の流行により継続が危ぶまれた時期がありました。それまで大切にしてきた交流ができない状況になり、2020年には、学生が作ったカカシの写真を地域の方に送って審査する「バーチャルカカシ」を実施。2021年には、カカシの設置はできたものの、感染予防のため設置期間は2週間となりました。

危機を乗り越え、継続できたワケ

win-winの関係を築く

「比礼カカシプロジェクト」は、新型コロナウイルスの影響による継続の危機を乗り越え、2023年の今も続いています。最近では、放棄田の景観維持のため、そばの実栽培とそば打ちもプログラムに加わったのだとか。ここまで続いてきた理由を境野さんはこう話します。「『必修の授業だから』というのはもちろんありますが、学生たちの『やりたい』という気持ちの後押しもあるのではないでしょうか」。実際に、プロジェクトは授業のひとつにはなっているものの、単位取得に関係なく参加する学生が毎年2~3人いるそう。自身もプロジェクトに参加してから3年目になる阿部さんによると、「大学では学べないことが学べること、そして地域の人との交流がとても楽しい」そうです。また学生を受け入れてきた橘さんは、学生の存在が地域に住む人たちの力になっていると話します。「私たちだけだと『地域には何もない』と思いがち。しかし、こうして学生さんが一緒に活動してくれることで地域の価値を再確認し、自信が生まれるのです」。

大切なのは「相利」

「協力のテクノロジー 協力者の相利をはかるマネジメント」著者の松原明氏によると、相利(関係者それぞれに利益のある状態)を実現すれば、それぞれにやりたいことが違っていたとしても協力してプロジェクトを行うことができるそう。「比礼カカシプロジェクト」は、まさにこの相利を上手に実現しているプロジェクトと言えるのではないでしょうか。「授業をしたい」大学側と「多様な学びをしたい」学生、そして「地域に人が来てほしい」住民の方たち。目的は違えど、同じプロジェクトを通してそれぞれの目的を達成しています。プロジェクトの立ち上げの際には、それぞれの相利を考えながら協力者を集めることが大切なのかもしれませんね。

 

学生と地域の人たちによる食事会。

何かを始めるために協力者を集めるとき、あなたの想いに共感してくれるかだけではなく、互いにメリットがある関係性になれるかどうかを考慮することも大切です。月日が経ち、活動開始当初と比べ活動に対するやる気が下がるときが来ても、そのメリットが続ける理由となり、やる気が回復するまでの間を取り持ってくれるのではないでしょうか。