特集 FEATURE

更新日:2023.02.01

「子育て」を「孤育て」にしないために~地域のみんなでできること~

 幼い頃、「男の子は、泣いちゃダメ」「女の子なんだから、女の子らしくしていなさい」と言われたことはありませんか。このような性別に対する無意識の思い込みや偏見を「ジェンダーバイアス」と言います。現代では、これまで女の子向けに作られていたお世話人形が性別問わず遊べるようにリニューアルされたり、性別問わず自由に選ぶことのできる「ジェンダーレス制服」が導入されたりと、これまで当たり前にあった性別による制限を撤廃する動きが出てきています。

家事・育児における男女格差

 一方、未だに男女によって大きな差があるもののひとつが、家事・育児にかけている時間です。内閣府男女共同参画局によると、一日に家事と育児に割く時間は男性が1時間23分、女性は7時間34分でした※。どの国も男性と女性の家事・育児時間の差は2倍前後に留まっている一方、日本では何と約5倍の差があります。この差の背景には何があるのでしょうか。

男性の家事・育児参加を阻む壁

 男性が家事や育児に割く時間が女性に比べて短い要因は大きく2つあると言われています。1つ目は、女性と比較して男性が長時間労働であること。OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめたデータによると、男性の有償労働時間は452分、女性は272分。男女間で約1.7倍の差があり、国際的に見てもその差は大きいと言われています※。2つ目は、女性と比べ男性は育児を理由に仕事を休みにくいことです。背景には「男性は外で働き、女性は家を守るもの」という昭和的な価値観が根強く残っている現状があります。男女共同参画社会の実現や男性の育児参加促進を目的として活動している「ファザーリング・ジャパンにいがた」に所属し、自身も2人の子どもを育てている荒木隆幸さんは言います。「7年前、私自身も育児休暇の取得に苦労しました。当時の社会には、女性が家事・育児をする方が子どもの幸せにつながるという意見や、働き盛りの男性が育児休暇を取ると、その分仕事での成長や学びの機会が失われてしまうという考えがありました」。

 

ファザーリング・ジャパンにいがた メンバー・ 荒木 隆幸さん

家事・育児から得られるもの

 無事育児休暇を取得し、今もパートナーと家事や育児を分担している荒木さん。実際に日々仕事をしながら、家事や子育てに取り組む中で、どのような気づきがあったのでしょうか。「家事・育児をすることで仕事の効率が上がりました。家事や育児で身に付けた段取りを考える習慣が、仕事に活きています。また、どちらか一方に負担がかかることがないので、家庭が円満で子どももしあわせそうです」。男性の家事・育児参加は、女性の社会参加の機会が増えるだけでなく、仕事のスキル獲得という面でもメリットがあるようです。「男性は外で働き、女性は家を守るもの」という考え方は、女性だけではなく男性の選択肢も狭めてしまっているのかもしれません。

地域が今できること

 子育ては、各家庭で夫婦間の家事・育児の分担を調整するだけでうまくいくものではありません。少子化の背景には、都市化や核家族化、地域の人間関係の希薄化等によって、各家庭での育児への不安感や負担感の増大、育児の孤立化という深刻な問題があります。子育てしている人たちが孤立しないために、「子育ては各家庭がするもの」という価値観もまたアップデートし、子どもの一時預かりや精神的なサポートなど地域全体で子育てができる環境を整えていくことが求められています。

市民活動で支える~産後ケアハウス ねんねこ~

 「産後ケアハウスねんねこ」は、育児中のママが社会で孤立せず、困ったときには助けを求められる場所が地域に必要だと感じた代表の吉原祐子さんが2018年に開設。妊娠・出産後の母子への相談やデイサービス等を行う施設として、当初は地域の開業助産師や栄養士による相談対応を中心に行っていました。その後母子保健推進員や子育て支援員らのサポートもあって利用者が増え、2021年度からは乳幼児の一時預かり事業も開始。長岡市に住む親子にとってより心強い存在になりました。現在は、同じようにママたちの手助けをしたい仲間が集まり、育児中の気分転換ができるような親子向けのイベントを開催しています。

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ねんねこは、親子にとって安心して通える癒しスペースになっている。

行政サービスで支える~ファミリー・サポート・センター~

 「ファミリー・サポート・センター」は、長岡市子ども・子育て課が行っている、子育ての援助を受けたい人(依頼会員)と援助したい人(提供会員)をつなぐサービスのこと。会員登録すると、提供会員から保育施設や学校、学童保育などへの送迎、保護者の病気や就労、外出時の預かりなどのサポートを受けられます。生後2ヶ月から小学校6年生まで(障がいのあるお子さんは中学校3年生まで)のお子さんがいる方が対象で、利用料金はかかりますが一部市からの補助を受けられます。子育てをしている家庭には、心強いサービスです。

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ファミリー・サポート・センターの提供会員へ、お子さんを引き渡している様子。

「子育て」を「孤育て」にしないために

 「子育て」が「孤育て」になってしまう要因は、「家事・育児は女性がすべき」「子育ては親がすべき」という考え方が根本にあるのではないでしょうか。荒木さんによると、女性自身が「家事と育児は女性がしなければいけない」と思い込み、パートナーに頼れない現状もあると言います。子育てをしている人たちが孤立しない社会をつくるために、まず私たち一人ひとりにできることは、性別における「〇〇」すべき」という考え方は果たして人を幸せにするのか、今一度考えてみることではないでしょうか。そして次に、地域に子育てをしている人たちが頼れる場所をつくり、「自分たちだけで頑張らなくてもいいんだ」と思える環境をつくること。未来の子どもたちのためにも、子育て世帯にやさしいまちにしていきたいですね。

※内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和2年度版」より

【参考】内閣府子ども・子育て本部「平成19年版 少子化社会白書」