特集 FEATURE

更新日:2024.03.26

対話でつくる「心のバリアフリー」

 年齢や性別、国籍、障がいの有無など、知らず知らずのうちに見えない線を人との間に引っ張って「違う」というラベルを貼っていませんか。制度上「区別」が必要な場合もありますが、その「区別」が本来必要ない生活圏に持ち込まれているということもあるのかもしれません。政府は障がいのある人もない人も共に暮らせる社会を目指し、令和4年に障害者雇用促進法を改正。法定雇用率も段階的に引き上げられることが決まっています。障がいの有無に関わらず様々な人たちが関わり合うことは、私たちの社会にどのような影響があるのでしょうか。障がいのある方と活動したり、仕事をしたりしている2つの企業にお話を伺いました。

一緒に活動する~ウェスタンバー Forty-Niners~

 東坂之上町にある「ウェスタンバー Forty-Niners」は、聴覚障がいのある倉又司さんと一緒に、参加者が手話を使って飲み物や食べ物を注文する「サイレントバー」を開催しました。元々お店には、映画の名前のついたカクテルがたくさんあり、字幕付きの映画が好きな聴覚障がいの方がよく訪れていたそう。耳の不自由なお客さんともコミュニケーションを取れるようになりたいと、スタッフで手話を勉強するようになりました。常連客だった倉又さんから、イベントの開催を提案されたときは「いいね!」と二つ返事で引き受けたそうです。

 イベントは、聴覚障がいのない方も含め約50人が参加し大盛況。Forty-Ninersオーナーの大橋元木さんは、「こうしたイベントが求められているんだと感じました」と言います。「雰囲気は障がいのない人たちの飲み会と変わらず、皆さんとても楽しそうでした。私たちスタッフも、なかなかできない経験ができたと思っています」。当日までの企画や準備も、とてもスムーズに進んだそうです。「最初に倉又さんが何を求めていて、私たちに何ができるのか、また企画や準備の過程の中でどんな不便をかける可能性があるのか、きちんと伝えました。何か齟齬があったときも『障がいのある方だから仕方ない』と思わずに、相手に伝えるようにしています」。何か「違い」のある人たちと一緒に活動するためには、特別なことをしなければと思いがちです。しかし大橋さんは「他の人たちと同じ対応でいい」と話します。「優しさは大切ですが、度が過ぎると相手と接することが難しくなってしまいます。冗談を言って笑い合ったり、他の人と変わらない対応をすればよくて『ハードルが高い』と思うことが間違いじゃないかと思うんです」。

 障がいのある方と一緒に行動するとき「配慮しなければ」と思いがちですが、それがお互いを苦しめてしまっているのかもしれません。

Forty-Ninersで開催した「サイレントバー」の様子。当日、参加者は手話や指差しで飲み物や食べ物を注文していたそう。

一緒に働く~株式会社 原信~

 皆さんお馴染みのスーパーマーケット「原信」を、新潟県内のみならず長野県や富山県でも展開している「株式会社 原信(以下、原信)」。20年ほど前から障がい者の雇用を始め、2024年現在は、133人の方が食品の加工やお惣菜の調理など様々な部門で働いています。

 人事教育部長・小山田 淳さんによると、障がいのある方を雇用する上で大切にしているのは「障がいのある方が、経済的・精神的に自立できるような雇用環境を整えること」だと言います。「仕事を通じて生計を立ててもらえるように、アルバイトではなくパートナー社員として雇用しています。またできる作業とできない作業はしっかり区別しますが、無関心にも過保護にもならないように、対等に接することを意識しています」。原信では、雇用の前に実習やトライアルを通してその方の得意としていることを見極めたり、働いた場合どのようなことが求められるのかをしっかりと説明したりしているそう。また働き始めた後も、もっている障がいの名前やその特徴が書かれた「支援カード」を使って、本社と配属先の担当者が密に連絡を取っています。人事教育部で障がい者雇用を担当している近藤 梨沙さんによると、障がいのある社員とのコミュニケーションの機会を増やすために、自主的に交換日記のような取り組みをしている店もあるそうです。

 現在、原信では、スタッフとしてだけではない、新たな障がい者雇用の機会を生み出しています。それは、「おいしさ」と「やさしさ」をコンセプトにした「Hana-well」という新しいブランドの立ち上げです。地球へのやさしさや地産地消など5つの軸を基に商品を開発し、そのパッケージに障がい者の方の作品を使用。また各店舗で障がいがある方のアートの展示も行っています。

 「障がい者雇用」と一口に言っても、性格も得意なことも人それぞれ。柔軟な考え方で、多様な活躍の場を用意することが大切なのかもしれません。

お惣菜を作っている様子。必要であれば作業の切り出しを行い、社員の適性を見ながら仕事の分担を考えます。

「Hana-well」の商品の一部。ロゴマークの「はーと」には、心・命・愛・地球といった意味が込められています。

 大切なのは、「違う」と境界線を引いて身構えないこと。そして、それぞれの障がいの特性を知り、お互いにどこまでできて、どこまではできないのかにちゃんと向き合った上で協働すること。これは、本来障がいの有無に関わらず、どのような関係の中でも必要である一方、「言わなくても、わかるだろう」という認識のもと私たちが見落としてきたものなのかもしれません。まずは、境界線を消し、お互いを知ることから「心のバリアフリー」を始めてみませんか。