活動レポート REPORT

更新日:2025.07.23

【開催報告】みんなのくらし編集部~実践者に聞く”人が集まる場”のつくり方~

7/21(月祝)アオーレ長岡市民交流ホールBCとYouTubeLive配信で『みんなのくらし編集部~実践者に聞く”人が集まる場”のつくり方~』を開催しました。

※アーカイブ配信視聴のご希望のかたはこちらからお申し込みください。

 

地域に「居場所」を育み、豊かな暮らしへ

近年、「居場所」という言葉が持つ重要性が増しています。単なる物理的な空間を超え、人と人とのつながりを育み、私たちのウェルビーイングな暮らしを支える「居場所」の役割に注目が集まっています。「薬で人を健康にするのではなく、人と人とのつながりでウェルビーイングな暮らしをつくる考え方」である「社会的処方」という概念を広めることと、長岡市が目指す「つながりが育む豊かな暮らし」と「社会的処方」が融合した先にあるのが「居場所」であり「場づくり」であることを知ってもらう機会として、この講座を開催しました。

今回は、このような「居場所」を地域に生み出し、継続していくための挑戦と工夫について、具体的な事例から紐解いていきます。

1部基調講演:横浜BUKATSUDOに学ぶ!~地域に居場所をつくる~株式会社リビタ 原田智子氏

■株式会社リビタのミッションと「価値の再発見」

株式会社リビタは、「社会暮らしをリノベーションし、あなたと環境にとって豊かな未来を創る」ことをミッションとする企業です。「リノベーション」という手法を用いて社会課題を解決しており、一般的な空間改修に留まらず、「価値の再発見・再編集」を重視しています。

リビタの地域連携事業部のミッションは、使われなくなった空間を、長年培ってきたリノベーションスキルと運営・コミュニケーションマネジメントスキルを駆使して「人が集まる場」として再生し、賑わいづくりと収益向上を目指すこと。ビジョンは、『場所』を『場』にする。そして『場』を『街』につなげていくというものです。居心地の良い空間に人が集まり、その場所を愛し、居場所とする人が増えることで、それが大切な『場』となり、街全体が楽しくなるという考え方がとても素晴らしかったです。

■BUKATSUDOの誕生とコンセプト

今回事例として依頼させていただいた「BUKATSUDO」は、2013年に横浜・みなとみらいの「ドックヤードガーデン」活用事業の公募をきっかけに始まりました。ここはかつて造船所のドックだった国の重要文化財であり、この歴史ある空間を「大人の部活が生まれる、街のシェアスペース」というコンセプトで再生しました。約14万人のみなとみらいのオフィスワーカーや居住者、横浜のクリエイターが「肩書きをはずして集い、趣味や街づくりの活動など、日常を豊かにする部活が生まれ、動き出す場」となることを目指されています。

 

■「部活」ではない「BUKATSU」の魅力

BUKATSUDOのコンセプトは、学校の「部活動」とは一線を画します。「未知の発見や、仲間との出会いから、趣味の集いや、街を豊かに変える活動が、はじまり、うごきだす」ものを「部活」と定義し、「大人の日常を豊かにする活動」を指しています。

一般的な部活動との主な違いは以下の通りです。

  • 定義: 学校教育の一環である部活動に対し、BUKATSUは「大人の日常を豊かにする活動」を指します。
  • 対象: 学生・未成年である部活動に対し、BUKATSUは社会人・大人が対象です。
  • 活動場所: 学校で行うことが多い部活動に対し、BUKATSUはBUKATSUDO施設だけでなく、場合によっては地域にはみ出すこともあり
  • 目的・意義: 教育の一環である部活動に対し、BUKATSUは暮らしの一環です。
  • 参加: やや強制的で定期的な部活動に対し、BUKATSUは自発的で不定期な活動、自由参加が基本です。

この「大人の部活」の重要なポイントは、学校の部活動のように「定期的に人が入れ替わる」こと。これにより、コミュニティの固定化を防ぎ、適度な「新陳代謝」を促し、新たな活動が常に生まれる状況を目指しています。また、単なる活動だけでなく、文化祭のような「発表会」を設けることで、参加者のモチベーションを高め、達成感を味わう機会を提供しています。

BUKATSUDOは、単なるシェアスペースではなく、「部室」のように誰もが気軽に立ち寄れる「たまり場」となることも目指しています。さらに、合宿や遠征の概念を応用し、「大人の修学旅行」としてリビタ運営のホテルなどを活用した活動も行っています。

■地域に根ざす姿勢:「炊き立ての白いご飯」のように

リビタの地域への関わり方や拠点運営方針は、『炊き立ての白いご飯』

  1. 多様な個性を受け止めること: 個性のある地域プレイヤーを分け隔てなく受け入れ(受容性)、外からの視点で新たな組み合わせの可能性を探る(拡張性)。
  2. 動く人のためのエネルギー源であること: 地域で活動する人の応援・サポート(推進力)を行い、活動が縮小しないための下支え(持続性)となる。
  3. 飽きが来ない、戻りたくなる空気感をつくること: 毎日でも飽きない日常の場(普遍性)であり、最後に戻りたくなる安心で大切な場(帰属性)であること。

この例えは、BUKATSUDOが地域において、多様な人々が安心して集い、活動し、エネルギーを得られるような、普遍的で不可欠な存在を目指していることを示しています。

また、トラブル対応においては、ルールを明確に定めておくことは最終手段として重要ですが、まずは利用者とのコミュニケーションを通じて解決を図ることが基本姿勢であると語られています。コンテンツの企画段階で、来てほしいターゲット層を意識した発信を行うことで、場と合わない利用者の流入を予防する工夫も行われているそうです。

 

2部:長岡の”なんかいい場”事例発表&パネルディスカッション

長岡市内で活動する3名の方をゲストにお招きし、それぞれの形態の異なる居場所(スペース)運営についてお話いただきました。

Yoriitoの挑戦:「暮らしに寄り添う、まちのヨリドコロ」

2024年4月29日にオープンした「Yoriito(ヨリイト)」は、吉田寛生さんが立ち上げた「暮らしに寄り添う まちのヨリドコロ」をコンセプトとした複合施設です。1階に喫茶室や家事室、2階から4階に様々な畳部屋や屋内・屋外スペースを持つこの場所は、まさに多様な人が集える「居場所」を目指しています。

Yoriitoの「場づくり」は、株式会社グランドレベルの「喫茶ランドリー」から着想を得ており、「ハード(物理)」「ソフト(仕組み)」「コミュニケーション(関係性)」の3つのデザインが重視されています。

■Yoriitoが大切にする「対話」と「包容力」

Yoriitoの運営において特に重視されるのは、「コミュニケーション」の質です。

  • 「接客」ではなく「対話」を
  • 「サービス」ではなく「まなざし」を
  • “お客さま”ではなく、一人の“ひと”として関わる

この姿勢は、訪れる人々を単なる利用者としてではなく、その人自身として尊重し、深い関係性を築こうとするYoriitoの理念を表しています。また、年齢や性別、肩書きや立場に関係なく、どんな人でもその人らしくいられるよう、ターゲットを絞らないという方針も特徴です。吉田さん自身も、ビジネスとしてはターゲットを絞るべきという認識がありつつも、誰もが自由に過ごせる「居場所」という理念を優先していると語ります。

■複合施設運営のリアルな課題

一方で、このような「居場所」を継続していくことには、多くの悩みもあるそう。Yoriitoの運営者は、以下の課題を挙げています。

  • 継続することの難しさ: 少人数での運営における人手不足や体調不良、季節変動やイベントによる売上の大きな波(特に閑散期の維持)、そして理念と採算の両立といっ
     た問題が挙げられます。日々の業務の中で、当初の「気軽に立ち寄れる場所」という理念が薄れ、カフェ運営が主軸になってしまうという葛藤もあるようです。
  • 複合施設ゆえの複雑さ: カフェ、ランドリー、レンタルスペースといった複数の機能を持つため、運営サイクルや集客方法がそれぞれ異なり、利用者の属性や目的も多
     様です。これにより、情報発信や接客が一律化しにくく、スタッフの業務負担や混乱、計画と現場のずれが生じることもありそうです。

「ひとつの場で、いくつもの目的を果たす」という価値は、裏を返せば「運営の軸がブレやすくなる」ことでもあり、「続けるためには、変わりながら守ること」という柔軟性と芯の強さが求められそうです。

 

地域に根ざす居場所:「親子のふれあい教室ぽっぽ」と「まちのくらしラボ」

■親子のふれあい教室ぽっぽ:母と子の「居場所」

齋藤春菜さんが運営する「親子のふれあい教室ぽっぽ」(以下、ぽっぽ)は、自身の幼稚園教諭としての経験と、母親になってからの孤独感を乗り越えたいという思いから、2016年にスタートしました。「育児中のママが孤独にならず、長岡で安心して子育てを楽しんでほしい」「自分らしく輝ける居場所づくり」をコンセプトに掲げ、子どもの居場所だけでなく、母親が「一人の人として」安心して過ごせる場を提供しています。

ぽっぽは、当初様々な場所を借りながら週1回から活動を始め、利用者の増加と共に週3回、そして春菜さんの末のお子さんの入園を機に週5回へと活動を拡大。2020年には、コロナ禍で活動場所が確保しにくくなったタイミングで、幸運にも専用の拠点を構えることができました。

運営は、年間同じメンバーで子どもの成長を共に見守る「定期クラス」(学年別に9クラス)と、育児相談会や季節のイベント、畑部活動など、誰もが参加しやすい「フリーデー」の二本立てで行われています。特に、「新たな挑戦をしたいママのチャレンジの場所」として、料理や寄せ植えなど、ママたちが主体となってイベントを企画・実施できる場を提供しているのが特徴です。これは、春菜さんが「やっちゃっていいよ」「みんなで作ろう」という姿勢で利用者と関わることで実現しており、参加者自身が「やらされているわけではなく、やりたいことをやっている」という感覚で主体的に活動しています。

ぽっぽの活動は、地域にも広がっています。近所の人々が子どもたちの声を聞いて喜んだり、イベントに協力してくれたりするなど、地域住民との温かい交流が生まれています。また、ぽっぽから地域にはみ出した活動として大きいのが、市民団体「青空ママフェス実行委員会」。ママたちを中心に学生や人生の先輩方も巻き込み、約1万人を動員する大規模イベントへと成長しています。これは、コミュニティの「新陳代謝」や「外への広がり」という点において、BUKATSUDOの事例とも共通する部分があると言えます。

ぽっぽは、自身の教室運営の売上から家賃を捻出する「身の丈タイプ」で運営しており、無理なく楽しく活動することを重視しています。しかし、活動が広がるにつれて、イベントと日々の運営のバランス、資金面での課題、そして後継者育成の必要性といった新たな悩みに直面していると語られていました。

■越後川口エンジン まちのくらしラボ:市民活動の「実験場」

青柳拓さんが代表を務める「越後川口エンジン」は、有志で活動する市民活動団体です。彼らは「空き家活用」をきっかけに、自らの元離れを「まちのくらしラボ」として開放しました。ここは、明確なコンセプトを定めず、まずは「やってみる」ことを重視し、活動しながら目的や課題を洗い出していくという、まさに「実験場」のような運営スタイルです。

越後川口エンジンは、コアメンバー、準メンバー、サポーターから構成されていますが、きっちりとした組織ではなく、協力的なメンバーが多様な活動を行っています。特徴的なのは「プロジェクト制」という活動ルールで、コアメンバーが責任者となり、好きなメンバーでチームを組み、プロジェクトが終われば解散するというものです。これは、青柳さんの本業である建設業での経験(チームの固定化による問題)から着想を得ており、「緩く」活動することで、新陳代謝を促し、かつ楽しく活動できることを目指しています。

「まちのくらしラボ」では、ワークショップで地域住民から「カフェが欲しい」という声が上がったことを受け、カフェをやりたい人が気軽に挑戦できる「チャレンジショップ」としてスペースを開放しています。利用料も安価に設定し、チラシ作成や近所への配布など、運営側が手厚くサポートすることで、初めての人でも「リアルな店舗を持つハードルの高さ」を経験しながらステップアップできる場を提供しています。彼らの願いは、ここで経験を積んだ人が、いずれ地域で自立して活動してくれることです。

課題としては、常時スタッフを配置していないため、いつでも開いている「居場所」にはなりにくい点が挙げられます。イベント時以外は、休遊スペースになりがちであり、このバランスをどう取るかが今後の課題です。また、市民活動ベースの運営のため、収益モデルの確立や、明文化された利用ルール・料金設定の必要性を感じています。特に、子どもたちの利用が活発になると、ルールがないことによる運営側の負担が増えるという経験から、利用料金を試験的に導入するなどの試みも始めています。

 

居場所が紡ぐ、豊かな未来へ

YoriitoもBUKATSUDOも、そしてぽっぽやまちのくらしラボも、異なるアプローチを取りながらも、共通して「人と人とのつながり」を重視し、それを通じてウェルビーイングな暮らしや地域全体の活性化を目指しています

少人数での運営の継続性や、複合施設の複雑さ、収益性の確保といった課題は常に存在しますが、「変わりながら守る」柔軟性や、「ハコ・コト・ヒト」の連鎖を生み出す工夫、そして多様な収益化戦略が、これらの「居場所」を支えています。また、コミュニティの固定化を防ぎ、常に新たな風を取り入れるための「新陳代謝」の仕組みは、継続的な賑わいと活力を生み出す上で不可欠な要素です。運営側が「出会いの場」を意図的に作り、人の繋がりをサポートしていくことも重要です。

現代社会では、単身世帯層の増加や年間総労働時間の減少、コワーキングスペースの増加などにより、「家の拠り所機能の低下」や「孤独解消の必要性」といったニーズが非常に高まっています。このような背景において、「居場所」は、私たちが社会とつながり、自己を表現し、新たな価値を創造するための大切な「土壌」のようであると言えるでしょう。多様な活動の種がまかれ、豊かな実りへと育っていく、そんな場所がこれからも地域に増えていくことを願ってやみません。

この講座がみなさんの「場づくり」や「居場所」への理解を深める一助となれば幸いです。

※講座の内容をご覧になりたい方は、アーカイブ配信視聴のお申込みをこちらからお願いいたします