皆さんは、周りの人との意見や価値観の違いに悩んだことはありませんか。童謡詩人・金子みすゞは、自身の詩の中で「みんなちがって みんないい」という言葉を残しました。しかし頭では「みんないい」とわかっていても、実際には心の底から納得するのは難しいことも。特に、市民や企業、行政など異なる主体が協働する市民活動では、意見や価値観の違いで衝突してしまうこともあるのではないでしょうか。今回は、海外から日本に移り住み、多くの「違い」と向き合いながら暮らしている3人の市民の方に、違いを受け入れながら、お互いを活かして活動していくためのヒントを伺いました。
海外から来たからこそ見えるもの
―同じ場所に長く住めば住むほど、自分が住んでいる場所を客観的に見るのは難しいもの。まずは海外から来たからこそわかる、日本や長岡の良さについて教えていただけますか。
ナヤニさん(以下、ナヤニ):日本は治安が良く、子どもたちが歩いて通学していたり、女性が一人で夜遅くに歩いていたりすることに驚きました。
春龍さん(以下、春龍):最初は、予約制ではない病院があることに驚きましたが、日本には病院が多くあり、必要なときにすぐに行けるので便利だと思うようになりました。
アレックスさん(以下、アレックス):便利と言えば、長岡市に引っ越したときのほぼ全ての手続きが、アオーレ1ヶ所でできるのは便利だと思います。メキシコだと、手続きごとに街中を移動しなくてはいけません。
―逆に、理解したり馴染んだりするのが難しかったことはありますか。
ナヤニ:相手の考えていることがわからずに困ることがあります。日本人は、考えていることや感情を表情に出さない人が多いので、察するのも難しいです。
アレックス:確かに。研究室のメンバーに、自分の研究について意見を求めても、何も言ってくれないことが多いです。思っていることがあれば、言ってほしいのに…
春龍:私は以前、英会話講師をしていたのですが、生徒に質問をしても発言してくれず困ったことがありました。答えを知っていても、間違いが怖くて発言しない子どもが多いです。意見を言うことに重きを置いていない教育の影響もあるかも知れませんが。
「違い」との向き合い方
―そういった違いと、どのように向き合ってきましたか。
アレックス:相手のルールに合わせてみることを大切にしています。銭湯に良くある「タトゥー禁止」など、なかなか腑に落ちないルールもありますが、合わせてみることで生きやすくなると感じています。
春龍:時間はかかりますが、合わせているうちに「良い」と思えるようになることもありますよね。私は、誰かと話し合うときには、相手を受け入れられる精神的な余裕を保っておくことが大切だと思っています。
ナヤニ:「話す」ことは大切。私は「わからないのは当たり前」と割り切って、疑問に思ったことは、ちゃんと相手に聞くようにしています。それぞれ生まれ育った環境や文化が違い、それぞれに個性があるから、わからないのが当たり前。私たちはみんな同じ人間であっても、それぞれに個性がある違う生き物であることを忘れてしまうと、トラブルになってしまうと思っています。
「違い」は「間違い」ではない
―話し合うことが大切だとわかっていても、日本では自分の意見を伝えるのが苦手な人も多いです。
春龍:アメリカの子どもたちは、発言することは良いことであると教えられます。同じことを聞きたいけれど発言を躊躇してしまう人がいる可能性を考えれば、そうした人たちを代表して話すことになり、それは立派なこと。仮に自分の意見が周りと違ったとしても、聞いている人は異なる視点を学ぶことができますよね。
―同調圧力の強い日本では、「違いは間違い」と捉えられがちです。市民活動団体の中にも、衝突が怖くて意見を言えなかったり、異なる意見でメンバー同士が衝突してしまうこともあります。
アレックス:日本では周りの人から「違う」と指摘されることをネガティブに捉えがちですが、それは自分の成長のチャンスと捉えることもできると思っています。
ナヤニ:自分が正しいと思っていることが、相手から見ると間違っていることもありますよね。数字の「6」が、見る方向を変えれば「9」に見えるように、意見が対立したとしても、相手の立場に立てば、その背景を理解できることもあるのかもしれません。
アレックス:そのためには、色々な場所に行っていろいろな人に会い、視野を広げることが大切だと思っています。私も、他の団体と一緒にイベントをすることがありますが、市民活動もその手段のひとつですよね。
長岡に市民活動条例ができて変わったことのひとつは、市民の中にワークショップという考え方が広がったことだと言われています。ワークショップは、異なる意見を排除せず、みんなの意見を上手に取り入れながら、一つの結論を導き出す場所。それは「違いは間違いである」という認識の下では成立しません。正解の反対は不正解ではなく、もうひとつの正解のはず。自分と異なる意見や価値観をもった相手であっても、その背景や理由を理解することでお互いに歩み寄れるのではないでしょうか。そうした一つひとつの積み重ねが、誰一人排除しない「協働のまちづくり」につながっています。
本記事は、らこって2022年11月号でご紹介しています。