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更新日:2023.10.24

二刀流で取り組む鳥獣被害対策

社会課題に取り組む法人と聞くと、多くの人が最初に思い浮かべるのは非営利法人ではないでしょうか。しかし「非営利団体=無償のボランティア」というイメージから事業単価を上げられず、十分な対価の要求が難しいことも。一方、最近ではビジネスとして利益を生みながら社会課題に取り組む企業も出てきています。今月号では、非営利法人と営利法人の二刀流で鳥獣被害対策に取り組んでいる山本麻希さんに、任意団体の立ち上げから現在までのお話を伺いました。

 

山本 麻希さん/特定非営利活動法人 新潟ワイルドライフリサーチ、株式会社うぃるこ 長岡技術科学大学の准教授として地域の獣害対策に関わる傍ら、2011年に任意団体として新潟ワイルドライフリサーチを設立(2014年にNPO法人化)。また2015年より、「一般社団法人ふるさとけものネットワーク」の代表として、獣害対策のプロを育てる「けもの塾 」を主宰している。2018年に「株式会社 うぃるこ」を立ち上げ、鳥獣被害対策のコンサルティングや研修に取り組む。

任意団体からNPO法人へ

ーまずは、任意団体として「新潟ワイルドライフリサーチ」を立ち上げた経緯を教えてください。
山本麻希さん(以下、山本):新潟ワイルドライフリサーチは、それまで新潟県で十分に行われていなかった正しい鳥獣被害対策の普及啓発活動や科学的データの収集を行うことを目的に、2011年に設立しました。主に鳥獣被害対策に関わるコンサルティングや調査研究、教育研修を行っていました。

ー2014年にNPO法人化されたのは、なぜですか。
山本:年間予算が1,000万円を超え、任意団体の事業規模では収まらなくなってしまったからです。また法人化することによって融資を受けたり、銀行口座やクレジットカードを作ったりすることができるという理由もありました。

ーなぜ、法人格の中からNPO法人を選ばれたのでしょうか。
山本:情報を開示するオープン性や、事業の公共性、行政から安心して仕事をお任せいただけるイメージの良さなどNPO法人の特徴が、私たちがしている活動と親和性が高いと思ったからです。所轄庁への報告や法務局への登記など大変な部分もありますが、法人化する価値があると思いました。

そして、企業化

ーNPO法人として活動してみて、いかがでしたか。
山本:経理や運営に係る資金を確保する難しさを感じました。NPO法人の場合、事業費は補助金や助成金でカバーできますが、人件費は対象になりません。当時は、私も含めた理事が無償で事業に関わっていたから、何とか運営できている状態でした。

ー2018年に、株式会社うぃるこを立ち上げられました。
山本:鳥獣被害の問題を解決するにはプロを育てる必要があり、そのためにはきちんと人を雇用する必要があると考えました。

ー実際に経営してみて、いかがでしたか。
山本:起業後3年目で2,000万円の赤字を出してしまいました。このままではまずいとコンサルティングを受けたところ、指摘されたのは受注単価の安さでした。起業当初に、NPO法人の頃よりも値上げしていましたが、見通しが甘かったですね。健全経営のため受注金額を上げていく必要があると痛感しました。

ーどのように、その問題を解決されたのでしょうか。
山本適正な受注単価を算出するため、建設会社が国土交通省から受注する際の技術者単価などを基に新価格を設定し、それまでの取引先に価格変更のお願いをして回りました。「高い」と言われたり、取引がなくなったりもしましたが、8割の方が継続してくださいました。

ーNPO法人と株式会社に対するイメージの違いを感じられたそうですね。
山本:日本には「NPO法人=ボランティア」というイメージが根強くあり、NPO法人が高い価格を設定してしまうと「NPO法人なのに、どうしてお金を稼ごうとするの?」と思われがちです。一方、株式会社は営利団体なので、値上げをしても比較的受け入れてもらいやすいのではないかと思いました。

 

うぃるこで行っている捕獲研修の様子。

法人格を使い分ける

ー現在、新潟ワイルドライフリサーチとうぃるこの事業の線引きは、どのようにされていますか。
山本:予算取りしやすいコンサルティング事業や指導者研修は株式会社であるうぃるこで、予算はないが社会的には必要な調査や教育機関での講演はNPO法人である新潟ワイルドライフリサーチで行っています。

ー団体の法人格を選ぶ上で大切なことは何でしょうか。
山本:自分たちの目的に合わせて、活動しやすい法人格を選ぶことです。活動を事業化することはNPO法人でも株式会社でもできますが、世間のイメージによって対応が驚くほど変わります。世間のレッテルと戦うぐらいなら、自分がやりやすい形態を選ぶのも一つの手ではないでしょうか。


社会課題の解決には、行政や企業、市民活動団体など異なる主体が力を合わせて取り組むことが必要です。それは、それぞれに得意なことと苦手なことが違うから。今月号で取り上げたのは、非営利法人と営利法人のメリット・デメリットを押さえた上で、両方を上手に活かしながら課題の解決に取り組んでいる例でした。「市民活動 虎の巻」では、法人格の選択について解説しています。こちらから、お読みください。

 

<訂正のお知らせとお詫び>
「らこって」10月号の誌面に誤りがございました。
つきましては、深くお詫び申し上げますとともに、下記の通り訂正させていただきます。

特集「任意団体からNPO法人へ」の段落内4行目

誤)山本麻紀さん → 正)山本麻希さん