「多様な主体による森づくり」
里山に親しみ、守り続けるために
今、私たちのまちが抱えている様々な課題に、それぞれの特性を活かして向き合い続けている団体をご紹介します。今月のテーマは、「多様な主体による森づくり」。私たちは日ごろ、森から守られ、多くの恵みを受けています。
長岡市の森林面積はおよそ44,000ヘクタール(2018年現在※)。総面積の約半分を占めています。中でも私たちに身近な里山と呼ばれる地域は、高度成長期に産業構造や生活様式が変化したことで、燃料としての樹木利用の衰退、周辺地域の高齢・過疎化、外材輸入拡大に伴う資源利用の縮小が進み、それらが自然環境の荒廃や地域特有の生物の生息域の消滅、生物種の減少につながりました。1980〜90年代になると自然保護の考えが広がり、森林整備のボランティア活動や企業による森づくりの推進が全国的に広がりました。長岡市内における森づくりについて、最近の取り組みを見てみましょう。
蓬平温泉からさらに山道を奥へと進んでいくと現れる、「天空のブナ林」と呼ばれる猿倉岳山頂付近は、知る人ぞ知る観光スポット。この林とその周囲一帯を整備しているのが市民活動団体「猿倉緑の森の会」です。かつては燃料の供給源として近隣住民に身近な山でしたが、時代の変化とともに人々の足は遠のいていきました。中越地震で被災した山道を市が復旧したのをきっかけに、子ども時代からこの山に馴れ親しんでいたという有志らが整備に加わり、それが会の結成につながりました。「足元のおぼつかない近所のお年寄りも、ここに連れてくると不思議と背筋がシャンとする。体が覚えてるんだね」と代表の中村さんは言います。こうして猿倉岳は生活に必要な存在から心の拠り所へと変わっていきました。また会では地元の太田小中学校に、毎年ブナ林での軽作業を体験してもらい、里山の知恵を教える取り組みを続けています。会が主催するトレッキングや間伐体験のイベント時には同校のOBも参加するなど、その後も交流が続いているとか。こうした誰もが参加しやすい取り組みは、ブナ林を次の世代まで引き継ぐことにもつながっています。
森林保全の担い手として企業にも期待が集まっています。新潟県は「企業の森づくり」事業を2008年より開始、長岡市内では現在3つの取り組みが展開されています。石油開発の大手企業である株式会社INPEXは、国内事業の中心である新潟県内で、環境保全や地域貢献につながる取り組みができないか考え、2010年、新潟県の紹介で「キツネ平どんぐりの森」(長岡市不動沢地区)の森林整備活動に参画し始めました。約0.7ヘクタールの森林整備を、同社社員や地域の方々、新潟県職員とともに取り組んでいます。作業は年2回開催され、終了後には参加者全員の懇親会も開かれ、社員と住民が親睦を深めます。今では地域の恒例行事として認知され、総勢100名が参加するまでになりました。
森づくりは100年の計と言われています。実際に森を整備する団体や地域の人、その活動を後押しする企業、森づくりに興味のある人と手助けを必要とする人をマッチングする組織など、様々な主体が関わることで、持続可能な森づくりになるのですね。
メンバー&参加者の声
※新潟県長岡市 平成30年3月23日公表「長岡市森林整備計画書」より
本記事は、らこって2021年7月号でご紹介しています。