「みんなの防災」
みんなに興味をもってもらうための、地域の防災活動の工夫とは
らこって編集部が長岡市を縦横無尽に駆け回って見つけた、協働や市民活動に関する情報をお届け。今月号のテーマは、「みんなの防災」。防災を自分ごとに考えてもらうきっかけづくりに取り組んでいる地域の防災活動を紹介します。
平常時に助け合い、有事に困りごとを解決できる関係性をつくることは、地震や水害といった自然災害による被害を防ぐことにつながります。内閣府が実施した2017年の防災訓練の世論調査によると、訓練に参加したことがあると答えた人は40.4%(※1)です。過去30年の中で最も低い2005年の27.5%(※2)と比べると上昇しているものの、依然として半数以上が防災訓練に参加したことがないという状況が続いています。参加の年齢層も60歳以上の男性が最も多く、若者や女性の防災活動への参加が少ないのが現状です。そこで今回は、長岡市内の団体や地区で、防災をより身近に感じてもらうために工夫をしている活動をご紹介します。
あそびから防災を学ぶ
特定非営利活動法人くらしサポート越後川口(以下、くらサポ)は、川口地域で親子が参加できる防災イベントを年に数回開催しています。防災イベントと聞くとハードルが高そうですが、「歩いて作って食べて 防災ピクニック」など親子がワクワクしながら一緒に楽しめる企画づくりを心がけています。なかでも好評なのが「段ボール秘密基地(シェルター)を作ろう!遊ぼう!」です。今は段ボールで秘密基地やイスを作り、災害時に役立つ段ボールの使い方をマスターできる内容にしています。くらサポスタッフで防災士の覚張裕香さんは、「1回やったことを家で実践して覚えてもらう。そのような体験を繰り返していくことで、結果的に有事の避難所生活でも使えるような防災の知識を楽しみながら学んでくれたらうれしいです」。講座で段ボール工作の基礎を学ぶと、自分で応用してベッドやソファーを作る参加者も。帰宅後にも段ボール工作をする子どもが続出するそうです。親子で楽しんでいるうちに、自然と防災を学べるモデルケースとなるような取り組みです。
ママの不安から生まれた防災
中之島地域のママが気軽におしゃべりできる場所をつくるPOP☆STAR。誰でも無理なく参加できるよう、活動日は固定せず、それぞれが趣味や特技を活かしたイベントを開催することでママ同士のつながりを育んできました。2021年からは、いつ起こるかわからない災害から子どもたちを守るため「中之島☆親子 防災プロジェクト」に取り組んでいます。まずはメンバーから防災に興味をもってもらうために、長岡市内で活動する防災士から災害時の備えの話を聞きました。そこでメンバー間の防災への関心に温度差を感じたため、「防災バス遠足」や防災グッズを作成するワークショップを企画しました。プロジェクトメンバーの小野順子さんは、「今地域にいるママは7.13水害や中越地震といった災害を経験していない人がほとんど。家族や地域を守るため、ママだからこそできる企画で防災の大事さを伝えています」。今後は、パッククッキングや避難所体験など更に学びが深まるイベントを実施予定。活動を更に広げるためにママネットワークを活かしたSNSでの情報発信にもチャレンジしています。ママが「もし災害が起きたときに、自分たちが困ることはなんだろう…」という視点の企画だからこそ、当事者にとって本当に役立つ防災活動につながっています。
小中学生にも訓練時の役割を与える
昔から地域の結束が強い日越地区。町内対抗の「日越地区連合町内会運動会」は、2019年でなんと67回を迎えました。そんな日越地域が大切にしているのが、顔が見えるコミュニティをつくること。2003年から開催している「日越地区合同防災訓練」には、2014年頃から小中学生にも積極的に参加を呼びかけています。日越地区地域安全部会の丸山隆さんは、「子どもたちにしっかりと役割を与えることで、災害発生時には大人と同様に動いてもらえるような訓練の内容にしています。特に中学生には何かあったときに地域を助けてもらいたいと考えていることもあり、積極的に地域のボランティア活動に参加してもらっています」。訓練では、小学生からは防災の壁新聞の掲示や発表をしてもらい、中学生からは大人と同様に心肺蘇生訓練などに参加してもらっています。お客さんではなく、地域の一員として訓練することで生まれる子どもたちの責任感。そのような役割を与えることが、地域の防災力向上にもつながっているのかもしれません。
持続的な防災活動のために
今回は、効果的で持続的な防災活動をするためには、参加のハードルを下げるため「楽しさ」を取り入れたり、異なる立場ごとの「当事者視点」を取り入れたり、人を巻き込むために「役割を与える」といった工夫をしている活動をご紹介しました。頻発する自然災害により地域生活への不安が高まる中、一人ひとりが防災意識をしっかりもち、家庭や地域における身近な対策を着実に実施していくことが、災害時の備えには不可欠です。地域の持続的な防災活動のためにも、多様な主体による創意工夫が今後も求められていくのではないでしょうか。
【参考文献】
※1 内閣府「防災に関する世論調査(2017年11月)」より
※2 内閣府「水害・土砂災害等に関する世論調査(2005年6月)」より
本記事は、らこって2022年3月号でご紹介しています。