はたらく×市民活動〜人材定着に活きる市民活動〜

5月28日(水)に、NPO法人長岡産業活性化協会NAZEとの共催で「NAZE交流部会オープンセミナー 〜人材定着に活きる市民活動〜」を開催しました。このセミナーは、特に製造業をはじめとする市内の事業者の皆様に、市民活動が従業員の皆さんにとって「社外の居場所」となり、ひいては人材定着に繋がる可能性についてお伝えするため、企画しました。
なぜ今、人材定着が重要課題なのか?
熟練工の引退と技能継承の危機
熟練工の引退ラッシュが続き、製造業の94%が技能継承を重要視しているにも関わらず、約8割が将来に不安を感じています。後継者育成における指導者不足や時間不足も深刻で、10年以内に主力ラインの半分でベテランがいなくなるケースも指摘されています。
採用難と離職率の上昇
人口減少が進む中で採用が難しくなり、特に製造業の新規求人倍率は全国平均を大きく上回る2.30倍となっています。また、物価上昇に伴
う大手企業の賃上げ先行により転職が加速し、従業員100〜299人規模の企業の離職率は19.0%と、大手企業よりも高い傾向が見られます。
う大手企業の賃上げ先行により転職が加速し、従業員100〜299人規模の企業の離職率は19.0%と、大手企業よりも高い傾向が見られます。
働く人のストレスとメンタルヘルス
働き方改革や柔軟な勤務制度への対応が進む一方で、労働者の82.2%が強い不安やストレスを抱えています。特に従業員規模の小さい事業所では、メンタル不調による長期休業や退職の発生率が高いという現状もあります。
企業はリスキリング支援や副業・兼業の解禁、育児・介護休暇の拡充、さらに幅の広い休暇制度(不妊治療、ペット休暇、推し活休暇など)や社内コミュニティの活性化といった様々な施策で、従業員のエンゲージメントや定着を図っています。
企業はリスキリング支援や副業・兼業の解禁、育児・介護休暇の拡充、さらに幅の広い休暇制度(不妊治療、ペット休暇、推し活休暇など)や社内コミュニティの活性化といった様々な施策で、従業員のエンゲージメントや定着を図っています。
働き方改革だけじゃない?働く人の心の健康と「居場所」の重要性
現代、特に若年層を中心に「孤独・孤立」が世界的な問題となっています。18歳から29歳の約4割が「時々以上に孤独」を感じているという日本の調査結果や、世界的に見ても35歳未満の従業員が最も孤独を感じやすいという報告があります。孤独は仕事の生産性を低下させ、健康にも悪影響を及ぼすことが分かっています。
その一方で、社会心理学の研究では、職場や家庭といった「主要な居場所」以外に3つ目の「居場所」を持っている人は、幸福度が高く、うつ病の発症リスクが低く、仕事のパフォーマンスも向上することが示されています。企業が従業員のために「社外の居場所」をサポートすることは、個人の幸福度向上を通じて、結果的に仕事への良い影響をもたらす可能性があるのです。そして、多様な市民活動はこの「社外の居場所」として非常に有効な選択肢となります。
人材定着への新視点!市民活動がもたらす5つの魅力

社外に“愚痴をこぼせる相手”ができる
会社の人間関係とは異なる、地域での多様な繋がりを通じて、利害関係を気にせず本音を話せる相手を見つけられます。
“異分野ヒーロー”になれる
普段の仕事スキルや得意なことが、地域活動の場で予想外に役立ち、感謝される経験を得られます。異なる分野の人々が集まるからこそ、
自分の専門性が際立ち、社会貢献を実感できます。
自分の専門性が際立ち、社会貢献を実感できます。
小さなリーダー経験と汎用スキルの獲得
市民活動では小規模ながら様々なプロジェクトがあり、会社では得られない多様な役割やリーダー経験を通じて、コミュニケーション能力や調整力といった汎用的なスキルを磨くことができます。
地域に顔が広がり“地元に根を張る”気持ちが強まる
地域に知り合いや友人が増えると、地元への愛着や「根を張る」意識が生まれ、簡単に他の地域へ移りにくくなる効果があります。これは定着率向上に繋がります。
会社の社会貢献が“自分ごと”に感じられる
従業員が市民活動に関わることで、会社が地域で行う社会貢献活動をより身近に感じ、自身の仕事に対する誇りやエンゲージメントを高めることができます。
市民活動は仕事にどう活きているの?事例紹介
セミナー後半では、実際に長岡市内で働きながら市民活動に関わっているお二人に、ご自身の経験をお話しいただきました。また、モデレーターの唐澤、事務局の八田も自身の活動を紹介しました。
【事例紹介1】カクタ田中清助商店・田中洋介さん:Uターンが繋いだ仕事と地域
長岡市与板町で江戸時代から続くお茶屋さん、カクタ田中清助商店の代表を務める田中洋介さん。東京でシステムエンジニアとして働いた後Uターンし、地元のゼネコン企業勤務の傍ら市民活動を始め、家業を継がれました。現在は、キャンドルナイト与板実行委員や地域のゴミ拾い、中学校区のコミュニティスクールディレクター、子商い塾など、多岐にわたる活動に関わっています。
市民活動を始めたきっかけは、Uターン後、東京では難しかった「人の顔が見える関係性」や「地元でできること」への思いでした。
市民活動を始めたきっかけは、Uターン後、東京では難しかった「人の顔が見える関係性」や「地元でできること」への思いでした。
市民活動が仕事に活きた瞬間
視野の広がり
市民活動のワークショップ形式の会議を経験し、フラットで自由な議論の進め方を学び、社内会議での雰囲気作りに活かしました。
人との繋がりの拡大
他業種、他地域、行政など、普段の仕事だけでは出会えない多様な人々と繋がり、信頼関係が生まれました。この人脈が、取引に繋がるなど長期的に仕事に活きることもあります。
異分野でのスキル活用と自己肯定感
システムエンジニア時代の資料作成スキルなどが市民活動で重宝され、「異分野ヒーロー」として貢献を実感しています。
家業の再評価と継承
市民活動での出会いや外部からの視点を通じて、家業の歴史や価値を再認識し、継承の動機の一つとなりました。
小商い塾の発想
自身の商売経験不足を背景に、子どもたちにゼロから商売を体験させる「子商い塾」のアイデアが生まれました。
活動継続の秘訣は「本人が楽しむこと」。気軽に、家族と一緒に楽しめる活動を選ぶことが大切だと語られました。
【事例紹介2】柳醸造株式会社・櫻井恵さん:会社のPRから始まった地域への愛着
三島町の柳醸造株式会社に長年勤務している櫻井恵さん。三島地域でイベントを企画する「ともぷらす」や地産地消を進める「みしマルシェ」といった市民活動に関わっています。
市民活動を始めたきっかけは、会社のPRを目的に「若者会議」への参加を勧められたことでした。そこで地域を良くしたい熱い思いを持つ若者たちと出会い、活動にのめり込んでいったそうです。
市民活動が仕事に活きた瞬間
商品開発のアイデア
イベントを通じて若い参加者から甘酒スムージーなど新たな商品アイデアを得て、実際に自社の人気商品に繋がりました。
若者からの発信力
若い世代がSNSで活動や商品を積極的に発信してくれることで、PRの幅が広がりました。
人脈の拡大とモチベーション向上
地域での活動で多様な人々と繋がり、退職を考えた時期に、地域の人々の温かい声に支えられ、仕事へのモチベーションを維持することができました。
地域貢献意識の芽生え
当初は会社のPRが目的でしたが、活動を通じて地域への愛着が深まり、地域全体や子どもたちのために貢献したいという思いが強くなりました。他のお店の商品をイベントで代行販売するなど、地域全体の活性化を「自分ごと」として捉えるようになりました。
リーダーシップと企画力
イベント企画/運営の経験が、PTA活動や娘さんの学校行事の企画にも活かされ、周囲からも頼られる存在になりました。市民活動への参加が出勤扱いとされていた時期もあり、会社からの理解とサポートも活動を続ける上で大きな支えになったとのことです。
【事例紹介3】当センター・唐澤、事務局・八田
モデレーターの唐澤(当センター職員)も、かやぶき古民家を拠点にした農業コミュニティ「まきどき村」などの市民活動に関わっています。ここでは、様々な職業や立場の人々が集まり、それぞれのスキルを活かして活動しており、「異分野ヒーロー」が次々と生まれる場だと紹介しました。
事務局の八田(長岡市地域おこし協力隊)は、移住当初の孤独感を市民活動への参加で解消し、「小さなリーダー経験」「汎用スキルの獲得」「地域に顔が広がり地元に根を張る気持ちが強まる」といった効果を実感していると語りました。市民活動が、仕事とも繋がる大切な「居場所」となっているそうです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
事例紹介後、参加者の方から質問がありました。
Q.企業は従業員の市民活動をどう後押しできるか?
A.会社から「行け」と強制するアプローチは逆効果です。従業員自身が興味を持ち、自発的に「楽しそう」「やってみたい」と感じることが大切です。会社側としては従業員が市民活動に興味を持ったり、実際に活動に参加したりする際に、その活動を理解し、勤務時間や業務との調整について相談に乗るなど「寄り添う」姿勢を見せることが、従業員の会社への信頼感を高め、定着に繋がります。田中さんの事例のように、上司の個人的な理解も大きな支えとなります。
まとめ:市民活動は個人、地域、そして会社の未来へ
今回のセミナーを通じて、市民活動が、単に地域貢献というだけでなく、従業員一人ひとりの成長、幸福度、心の健康、そして地域への愛着を育み、結果として企業の大きな課題である人材定着に繋がる可能性を秘めていることが改めて確認できました。
事例紹介のお二人からは、市民活動で得た人脈や経験が、仕事への新たな視点やアイデアをもたらし、困難な状況を乗り越える力や、地域への強い愛着や貢献意識に繋がっている様子が伝わってきました。また、活動を通じて地域の子どもたちの成長に関わる喜びや、多様な立場の人々と協力することの楽しさも語られました。市民活動の継続や発展には、参加する個人の情熱はもちろん、企業の理解や応援も非常に重要です。人材不足や地域社会の担い手不足といった社会課題を解決していくためにも、企業と市民活動が手を取り合うことの意義は大きいと言えるでしょう。
ながおか市民協働センターは、今後も、働く人が市民活動を通じて自分らしい「居場所」を見つけ、輝けるよう、企業と市民活動の連携をサポートしてまいります。そして、「長岡市民ならどこかに所属すると友達ができる」と感じられるような、市民活動がより身近で当たり前になる社会を目指したいと考えています。
ながおか市民協働センターは、今後も、働く人が市民活動を通じて自分らしい「居場所」を見つけ、輝けるよう、企業と市民活動の連携をサポートしてまいります。そして、「長岡市民ならどこかに所属すると友達ができる」と感じられるような、市民活動がより身近で当たり前になる社会を目指したいと考えています。
ながおか市民協働センターからのお知らせ・ご案内
当センターでは、従業員の皆様の「居場所づくり」に役立つ「このまちでわたしのいばしょを見つけよう」を無料提供しております。従業員向けに配布をご希望の企業様は、ぜひお声がけください。
市民活動に関するご相談や、企業と市民活動団体との連携に関するご相談も随時受け付けております。人材定着策の一環として市民活動の導入を検討したいなど、お気軽にお問い合わせください。
今回のセミナーが、企業の皆様が「人材定着」という重要な課題に対し、市民活動という新たな視点を持つきっかけとなれば幸いです。