2021.04.09

市民参加、市民協働、そしてその先へ。【らこって100号記念対談】磯田達伸 × 羽賀友信

らこって100号記念対談
市民参加、市民協働、そしてその先へ。

 

長岡市が「協働によるまちづくり」を推進するにあたって市民協働条例を定めてから10年。これまでの長岡市における市民活動の歩みと、地域の未来、市民活動が果たすべき役割について、磯田市長と、協働センターの運営を受託するNPO法人の羽賀代表理事にお話を伺いました。

条例制定から10年、確かな手応え。

 

磯田市長(以下、市長):市民協働条例は、市民の皆さんと話し合いを重ねて、つくりあげた条例です。1988年に地域福祉活動として始まった「ともしび運動」では、行政の事業に市民にも加わってもらう「市民参加」がスローガンでした。それが「市民協働」では、行政と市民が対等の立場でやろうとなった。ステージが一つ上がったと感じました。

羽賀代表(以下、羽賀):協働条例は市民ワークショップを14回も開きました。そうした参加型の文化が、市民の主体性を育んでいると思います。現在、協働センターに登録している団体は400団体を超えるなど、活動の見える化が進みました。

市長:10年を迎え、条例が掲げた理想に近づいている手応えはあります。ただ、新型コロナウイルス感染症が社会に大きな影響を及ぼす中、市民活動にも変化が求められています。今まで培ってきたものを活かして、次のステージを目指すタイミングだと考えています。

羽賀:市長は以前から「地域共生」というキーワードを出されていますね。

市長:「自助、共助、公助」という言葉が話題になりました。私は、「共助」に対して公的な支援をして、市民同士の助け合いの仕組みを拡げていくことで「地域共生」を実現していきたいと思っています。そのベースとなる担い手が育ってきてくれたと思います。

磯田達伸:1976年から長岡市役所に勤務し、副市長職を経て2016年市長に初当選。現在2期目を務めている。

外から人を受け入れ、化学変化を。

 

市長:共助をさらに豊かにするためには、これからはコミュニティを『外に開くこと』がポイントになると思っています。

羽賀:長岡市は、2004年の中越震災の際に、自分たちだけではどうしようもない事態に遭遇し、外部の人たちに助けてもらいました。その経験から地域には「若い人たちが来ると地域が変わる」という期待感もあり、外部の人に対して寛容だと思います。

市長:ウイルス禍により、企業の拠点や人の居住を大都市から地方に移すという「地方分散」の流れの中で、若い人、外の人に「選ばれるまち」になれるかどうかが、ますます問われてきます。

羽賀:単に外から人が来るだけでは何も変わりません。私たちは「受援力」と言いますが、受け入れる側が外部人材を上手に活かす体制づくりも大切です。

市長:協働センターのスタッフは、北海道や長野県、また市外の出身者が大半だと聞いています。受け入れる側が「ソトモノ目線」を内部に持っていることが、「協働」や「地域共生」には不可欠ですね。

羽賀友信:長岡市国際交流センター長も務め、グローバルな人材育成や協働によるまちづくりに尽力している。

「人」を大切にしてきた長岡の風土

 

羽賀:災害ボランティアだけでなく、大学や留学、ビジネスでも、長岡に関わったことで「長岡に育ててもらった」と思っている人が多くいます。外の人を受け入れ、人を育てていく姿勢というのは長岡が昔から育んできた風土ではないかと思います。

市長:長岡市初の公立図書館「互尊文庫」を設立した野本互尊翁は「一にも人、二にも人、三にも人」という言葉を残しました。本や知識ではなく、図書館に集まった人たちが、切磋琢磨して学び合い、一緒に何かにチャレンジしてほしい。何よりも人を育てることが大切と説いたのだと思います。

羽賀: NaDeC BASE(ナデックベース)もコーディネーターが来てから活性化した印象です。協働センターもコーディネーターを配置する予算をしっかり頂いている。震災の際も復興支援員という「人的支援」をしてきました。長岡市が制度を用意するだけでなく、市民や団体と一緒に解決策を考えたり、つないだりする「人」に予算を付けてきたというのは大変重要だと思います。

市長:ハブとなる「人」がいて初めてプラットフォームは機能します。そうした人を支え、育てるプラットフォームが複数あることが長岡の特徴。今後は、そのようなプラットフォーム同士が有機的につながり、一つの生態系(エコシステム)になってほしい。その生態系に入れば、どんな分野からでも、人とのつながりや、チャレンジ、学びの機会が得られるようになれば、長岡市の大きな魅力になると思います。

 

幸せな暮らしが叶う地域社会へ

 

市長:社会保障が完璧で、隣人に頼らずに、行政が何でもやってくれる社会になっても、人間は幸せになれるとは思えません。それよりも「助けて」と声をあげた時に、周りが助けてくれるという関係性の中にこそ生活が成り立つのだと思います。市民活動というのはまさに助け合う関係性をつくるもの。地域共生の源もそこにあります。

羽賀:助け合いを行う人を支え、育てる場所として協働センター運営してきました。ただ、ウイルス禍の中でどのような活動が可能なのか、なかなか方向性が見いだせていません。

市長:感染症の時代はこの先も続きます。この一年で、人と人とのつながりが希薄になったことに強い危機感を持っています。「直接会わなくても大丈夫」「このままで良いじゃないか」といった声まで聞こえてきています。しかし、それでは地域社会は崩れていってしまいます。このような状況だからこそ、協働センターや活動団体にはあえて人と人とのつながりをつくる、顔を合わせる場をつくる役割を期待しています。

羽賀:今、活動団体は「どの程度の活動なら許されるのか?」という不安を抱えています。

市長:今こそ「自分たちの活動が必要なのだ」と自信を持ち、知恵を絞って、工夫しながら活動してほしいと思っています。協働センターには、その後押しを期待しています。

 



本記事は、らこって2021年4月号(創刊100号記念号)でご紹介しています。