2022.12.16

【特集】帰ってきた!市民活動の文化祭~ウイルス禍での開催を通して見えたものと、これから~

 2022年10月8日、新型コロナウイルス感染症の流行により対面開催の中止を余儀なくされていた「ながおか市民活動フェスタ(以下、市民活動フェスタ)」が、3年ぶりにアオーレ長岡で開催されました。市民活動フェスタは、市民活動団体が日頃の活動をPRする出会いと交流の場。2006年から大手通歩行者天国で行われていた「市民活動まつり」が、アオーレ長岡がオープンした2012年に「ながおか市民活動フェスタ」と名前を変え、アオーレ長岡を会場にして行われるようになりました。以来、市民の方に活動の楽しさを伝える「市民活動の文化祭」として多くの方に親しまれています。

 

ジャンルを超えた“ごちゃまぜ”な場所

 市民活動フェスタの大きな特徴の一つは、ジャンルや世代、地域を超えて様々な団体が集まる“ごちゃまぜ”なイベントであること。当日は地域づくりや子育て、社会福祉、文化芸術など様々な分野で活動している団体が集まり、ステージ発表やブース出店で日頃の活動をアピールします。その内容は、フルバンドのオーケストラに股旅舞踊、ロボコン体験に外国人市民による母国紹介と、実にバラエティ豊かです。
 この多様性により、ご来場される市民の方は、「何だか楽しそう」と立ち寄った場所で知らなかった様々な活動と出会うことができるのです。楽しくかるたを体験していたら、知らないうちに長岡の歴史について学んでいたり。お昼ご飯を買いに行ったブースで、障がい者支援の活動をしている団体に出会ったり。実際に、今年度の来場者からは「様々な団体の活動を知ることができて楽しかった」「市民活動はなかなか知る機会がないので、知ることができてよかった」「長岡の皆さんの取り組みがすばらしい」という声をいただいています。
 一方、多くの団体が参加することで、団体が市民活動フェスタに参加しやすくなるという一面もあります。市民活動フェスタは、アオーレ長岡という大きな会場で多くの市民の方を前に日頃の活動をPRできる場所。「自分たちだけだと集客が難しい。文化祭のように、他の団体がいるからこそ、参加しやすいという声を参加団体から聞きます」と、副実行委員長・荒井ゆみさん。また参加するとなると準備が必要になり、その過程が参加団体への刺激になっているという一面も。副実行委員長・田村京子さんは「参加するには、ちょっとした勇気と元気、やる気が必要。これらが市民活動団体のカンフル剤になっているのではないでしょうか」と言います。

市民活動フェスタを通して出会った、オンザロックオーケストラとappy(あっぴー)さんがコラボレーションステージを披露。

 

対話と作業でつながりをつくる

 しかし、異なる分野の団体が集まれば集まるほど、価値観や意見の違いによりイベントの運営は難しくなってしまいがち。そこで市民活動フェスタでは、対話や作業を通じて参加団体同士がつながる機会を大切にしています。例えば、その年の参加団体全員が顔を合わせる全体会議や、ナカドマやアリーナなどエリアごとに集まり、イベントを盛り上げる企画を行う町内会制度。「様々な課題を克服するために、みんなが対話を重ねて議論する。その合意形成のプロセスこそが、団体の皆さん、ひいては長岡のコミュニティ全体にとって大きな財産になるのではないでしょうか」と、2022年度実行委員長・海津裕之さんは言います。また前日の備品搬入、イベント後の搬出や片付けも、参加団体全員で実施。「次は、何をする?」「これは、どうやるんだろう?」と、一緒に作業をするからこそ会話が生まれ、普段顔を合わせることがない人たちの交流につながります。

前日準備で集まった、参加団体の皆さん。備品の取り扱い方を聞き、レイアウトに沿って椅子やパネルを設置しました。

 

ウイルス禍で失ったもの

 2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの市民活動団体が活動の機会や場を失いました。ご自身も団体の一員として活動している海津さんは、当時の状況について「事実上の休眠状態だったと言えます。この期間に失った、一番大きなものは自分たちの中にある『やる気』だったのかもしれません」と話します。市民活動フェスタも、感染防止の観点から対面開催の中止を余儀なくされ、2020年度は活動動画の作成、2021年度は活動PR展示を行いました。

 

今回の開催で得た手応え

 感染症流行後、初の対面開催となった今年度は、参加団体数が31になり規模は縮小したものの、2,000人の方が来場。当日ステージ発表の運営をしていた田村さんは「印象的だったのは、ステージから下りてくる参加団体の皆さんのうれしそうな表情。やはり、みんな表現する場所や貢献できる場所を求めているんだと思いました」と当日を振り返ります。今回の開催を通して、失ったものの全ては取り戻せなかったけれど、掴んだのは確かな手応え。「不完全な状態であったとしても、工夫次第でできることはたくさんある」と、荒井さん。また海津さんは「気づいたのは、新しいアイデアを創出する上で、人と直接会ってコミュニケーションをとることが、いかに大切かということ」と、対面開催ならではの良さを再確認したと言います。

 

社会的処方のプラットフォームとして

 ウイルス禍で広がった人々の孤独や孤立を癒す手段のひとつとして、注目されている市民活動。薬を処方するのではなく、人とのつながりを処方することで精神的な問題を解決する手法を「社会的処方」と言います。市民活動フェスタは、市民の方が知らなかった活動と出会うプラットフォームとしての役割を担い、長岡の社会的処方の一助となっていくのではないでしょうか。海津さんは言います。「市民活動には、これといった定義はありませんが、共通しているのは活動を通して喜びを感じ、情熱と誇りをもって取り組んでいること。そんな熱い人たちが中心となり、市民の方も一緒になって楽しみ、喜びと感動を共有できる場所、それが市民活動フェスタだと思います」。長岡に住む人たちが新たな活動に出会い、参加し、生きがいを見つける。一人ひとりの小さな出会いが、大きなまちの元気をつくっていきます。


本記事は、らこって2022年12月号でご紹介しています。