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更新日:2023.04.21

「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」って何?

「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」って何?

 ラブソングを聞けば、そこには当たり前のように愛をうたう「僕」のとなりに「彼女」がいます。「僕」のとなりに「彼」がいるラブソングを聞いたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。知らず知らずのうちに、私たちの社会が「恋愛や結婚は、男女がするもの」という常識のもとに、つくられてしまっているのかもしれません。しかし実際には性のあり方は多様で、「男性」「女性」というように簡単に分けられるものではありません。このような状況を変え、誰もが自分らしく暮らせるまちにしようと、長岡市では「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」が始まりました。今月号では、新潟県弁護士会 人権擁護委員会 レインボープロジェクトの座長・黒田隆史さんに、この制度についてお話を伺いました。

 

黒田 隆史さん |弁護士。新潟県弁護士会 人権擁護委員会 レインボープロジェクトの座長として、性的マイノリティの課題に取り組む。教職員・生徒向けの講座「LGBT超基礎講座」や、行政職員向けの研修などを担当しているほか、様々なメディアで活躍。


「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」とは

ー「LGBTQ」という言葉をよく聞くようになりましたが、どのような意味なのか教えてください。
黒田さん(以下、黒田):レズビアン(女性の同性愛者)やゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体と心の性が一致せず、出生時に割り当てられた性別に違和感のある人)などの方を総称して「LGBTQ」という呼び方をしています。しかし人の性のあり方はグラデーションで、100人いれば100通りの答えがあります。「LGBTQ」という言葉では一人ひとりの性のあり方を拾い切れていない気がするので、私は「性的マイノリティ(性的少数者)」という言葉を使っています。

ー「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」の導入を、どのように捉えていらっしゃいますか。

長岡市の「パートナーシップ・ファミリーシップ制度」について
性自認※1や性的指向※2により婚姻の届け出ができないカップルを対象とした「パートナーシップ」と、その親族が家族として生活する「ファミリーシップ」の届け出を受け付け、市が証明書を発行する制度のこと。証明書を提示することで、住民票の続柄に「縁故者」と表記したり、家族として市営住宅に入居したりできるようになります。
※1出生時に割り当てられた性別にかかわらず、自分自身の性別をどう認識しているのかということ
※2どのような性別の人を好きになるのかということ

黒田:制度の導入により、当事者たちは「市から私たちの関係を認められた」「社会に受け入れられた」と感じられると思います。若い世代の当事者たちが、長岡市での自分たちの生活をイメージできるようにもなりますね。また企業では、福利厚生の面で従業員とその同性のパートナーを、異性カップルと同じように扱えるようになると考えています。同性カップルがより認知されるようになり、性的マイノリティへの理解につながるのではないでしょうか。

性的マイノリティの方たちの意識や尊厳、連帯の象徴として世界中で使用されている「レインボーフラッグ」。

制度の課題

ーこの制度に課題はありますか?
黒田:法的拘束力がないため、入院や離別などの人生の重要な場面で影響が出てくる可能性があります。例えば、同性のパートナーが入院した場合、法的に家族でないと面会できないことがあります。パートナーが入院中、一度も面会できずに亡くなってしまったという実例もありました。また体外受精などで子どもをもつ同性カップルもいますが、親権は片方の親しかもてません。すると、どんなにしあわせに暮らしていても「親ではない」「子ではない」という想いを抱えるだけではなく、学校から重要な連絡が受けられないという状況も起こりえます。

ー解決は難しいでしょうか?
黒田:簡単に解決できる問題ではないと思っています。医療の面で言えば、性的マイノリティに限らず一人ひとりにより丁寧に対応できる時間的・財政的余裕が必要ですが、現在の状況を考えるとなかなか難しいでしょう。同性婚が認められればいいのではないかという議論もありますが、法律が整ったとしても、周囲の人たちの理解が進まないと制度の運用自体が難しいかもしれません。例えば、パートナーが救急搬送されるときに、周りの理解がなければ、一緒に暮らしている同性のパートナーではなく、離れて暮らしている血縁者に連絡がいくと思うのです。

ーこれまでの世間の常識とどうしてもぶつかってしまう部分がありそうです。
黒田:常識は壊して「小さく」するものではなく、違いをもった人たちみんなが入れるように「広げる」ものだと思っています。色々な人が集まって行っている市民活動が少しずつまちをよくしているように、色々な違いをもつ人たちがお互いを社会の構成員として認め合い、一緒によりよい長岡をつくっていけたらいいですね。

「みんなちがって、まぁいいか」

ー当事者の方がより暮らしやすいまちにするために、私たちにできることを教えてください。
黒田:日本人は真面目な方が多いので、悩みすぎてしまうところがあると思うのですが、当事者の方たちは特別な対応を求めている訳ではありません。「あ、そうなんですね」と言ってもらうだけで十分なんです。今は自分たちのことを「ふうふです」と言えないため、「そうなんですね」という言葉さえ言ってもらえない状況ですから。金子みすゞさんの言葉に「みんなちがって、みんないい」という言葉がありますが、「良い」とまでは思えなくても「みんなちがって、まぁいいか」ぐらいに思えたらいいですよね。

 私たちは、知らず知らずのうちに「性的マイノリティ」「外国人」「障がい者」というカテゴリーに分けて話をしがちですが、黒田さんの言葉にあるように、「障がい、年齢、性別に関わらずみんな大切な“ひとり”」なのです。色々な人が入れるように社会の器を広げていくこと。そんな考え方を大切にできるまちは、きっとみんなが協働できるまち。「みんないい」とまでは思えなくても、「みんなちがって、まぁいいか」と目の前にいる人の“らしさ”を尊重する姿勢を大切にしていきたいですね。